トピックス

ホーム >  トピックス  >  光合成で“ゆがんだイス”型の触媒が酸素分子を形成する仕組みを解明~人工光合成触媒の合理的設計の糸口に~

光合成で“ゆがんだイス”型の触媒が酸素分子を形成する仕組みを解明~人工光合成触媒の合理的設計の糸口に~

岡山大学
理化学研究所
科学技術振興機構(JST)
日本医療研究開発機構

 異分野基礎科学研究所の菅 倫寛准教授、秋田総理准教授、沈 建仁教授、理化学研究所の吾郷日出夫専任研究員らの共同研究グループは光化学系Ⅱの“ゆがんだイス”の形をした触媒が酸素分子を形成する直前の状態の立体構造を決定しました。この結果から、光合成において酸素分子が形成される反応の仕組みが明らかになりました。本研究成果は、米国東部時間10月17日午後2時(日本時間10月18日午前3時)米国科学誌「Science」のResearch Articleとして掲載されます。
 光合成は光エネルギーを利用して、光化学系IIと呼ばれるタンパク質が水分子から電子と水素イオンを取り出し、酸素分子を形成する反応によって始まります。これまでの研究で、反応が起こる触媒部分の立体構造や酸素形成の部位が明らかになっていましたが、酸素分子が形成される仕組みはよく分かっていませんでした。
 研究グループは、光化学系Ⅱの結晶にX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAの発振する量子ビームを照射し、立体構造を高い解像度で解析しました。その結果、酸素分子の形成に必要と考えられる2つの酸素原子を触媒中に発見し、量子化学計算の結果と考え合わせることによって、これら2つの酸素原子の化学的な性質を明らかにしました。さらに反応に必要な水分子を取り込むための経路や反応で生じた水素イオンを排出するための経路を見いだしました。
 本研究で明らかになった酸素分子を形成する仕組みは、光エネルギーを利用して水から電子と水素イオンを取り出して有用な化学物質を作り出す「人工光合成」の技術を開発するための重要な知見を与えると期待されます。

◆発表のポイント

  • 光合成は光エネルギーを利用して、光化学系Ⅱと呼ばれるタンパク質が水分子から酸素分子を形成する反応で始まりますが、酸素分子が形成される仕組みは分かっていませんでした。
  • 量子ビームであるX線自由電子レーザーを用いて、光化学系Ⅱの“ゆがんだイス”型の触媒が酸素分子を形成する直前の状態の立体構造を正確に決定しました。
  • 本研究成果は、光合成で水分子から水素イオンや電子を取り出す仕組みの解明だけでなく、光で水を分解するための人工光合成触媒の設計にも役立つことが期待されます。
図1 光化学系Ⅱの全体構造

図2 酸素分子を形成する反応における触媒部分の立体構造の変化
■論文情報
論 文 名:“An oxyl/oxo mechanism for oxygen-oxygen coupling in PSII revealed by an X-ray free electron laser”
「X線自由電子レーザーで明らかにしたPSIIのO-O形成におけるoxyl/oxo機構」
掲 載 紙:Science
著  者:Michihiro Suga, Fusamichi Akita, Keitaro Yamashita, Yoshiki Nakajima, Go Ueno, Hongjie Li, Takahiro Yamane, Kunio Hirata, Yasufumi Umena, Shinichiro Yonekura, Long-Jiang Yu, Hironori Murakami, Takashi Nomura, Tetsunari Kimura, Minoru Kubo, Seiki Baba, Takashi Kumasaka, Kensuke Tono, Makina Yabashi, Hiroshi Isobe, Kizashi Yamaguchi, Masaki Yamamoto, Hideo Ago, and Jian-Ren Shen
D O I:10.1126/science.aax6998

<お問い合わせ>
岡山大学 異分野基礎科学研究所
准教授 菅 倫寛(すが みちひろ)
(電話番号)086-251-7877

教 授 沈 建仁(しん けんじん)
(電話番号)086-251-8502

<広報に関するお問合せ>
岡山大学 総務・企画部広報課
(電話番号)086-251-7292

<JSTの事業に関するお問合せ> 科学技術振興機構 戦略研究推進部
川口 哲(かわぐち てつ)
(電話番号)03-3512-3525

<AMED事業に関するお問合せ>
日本医療研究開発機構
創薬戦略部 医薬品研究課
(電話番号)03-6870-2219

2016年度
2017年度
2018年度
2019年度
2020年度
2021年度
2023年度